7月17日の朝刊にある女優の訃報が載っていた。その出演作品を目で追うと、「欲望」というタイトルがあった。
この映画にはちょっと関心がある。初めて見たのは、20代でまだ神戸にいた頃だ。確か、阪急三宮駅の階上にあった阪急会館だと思う。
当時、世の中は不条理ばやりで、文学から映画まで前衛が流行った。この映画もその系統だ。難解で、何か訳が分からなかった。それからもう半世紀を経た。
あるとき、「ラテンアメリカ文学入門」(中公新書)に導かれて、中南米の短編小説を読みだした。フリオ・コルタサルというアルゼンチンの特異な作家、その短編集「悪魔の涎」(岩波文庫 赤790-1)を読み終わり、解説(290頁)の記述に驚いた。
数行引用する。
『悪魔の涎』(ちなみに、映画監督のミケランジェロ・アントニオーニがコルタサルのこの作品を読んで触発され、映画『欲望』を製作したことはよく知られている)(中略)。パリに住む翻訳家で、余暇をアマチュア・カメラマンとして過ごしている主人公が撮った一枚の写真が突然動き始め、身の毛のよだつような恐ろしい現実が隠された一面を開示した(後略)。
原作はこれか。この映画はずっと気になっていて、数年前、アマゾンでDVDを求め、50年ぶりに見直した。カメラマンの主人公はデビッド・ヘミングスが演じ、彼が撮ったフィルムの返却を求める女がヴァネッサ・レッドグレーブだった。ジェーン・バーキンは端役だったような気がする。
「欲望」の原題はBlowup (引き伸ばしの意味)で、カメラマンが撮った写真を何度も拡大し続けると、ある殺人事件を暗示する画像が現れる。
実はいま水墨画と書道に凝っていて、画のなかにとても小さな字を書き込む試みをしている。その部分を何度も引き延ばすと、漢詩の数行が現れる仕組みだ。
私はそんなBlowupに興味を持っていて、その一因は若い頃に見たこの「欲望」にあるのかもしれない。
それにしても、痩身の若い女ジェーン・バーキンはどんな役柄だったのだろう。それを思い出すために、書庫の奥のDVDを見直そうか。いや、それも面倒だな。
<あとがき>
車で10分の近くにトランクルームを3室借りている。さしあたり必要ではないもの、本やビデオなどをそこに収納している。その中に「欲望」のDVDがあるはずだ。ジェーン・バーキンの役柄を確かめるため、奥の奥まで探すのは実に億劫だ。いつの日かそのDVDを手にすることがあるだろう。そのときに見直せばいい。いや、そのとき、もう「欲望」に興味を失っているかもしれないが・・・。
フリオ・コルタサル(Julio Cortazar)はアルゼンチン人の両親のもと1914年、ベルギーで生まれ、4歳のときアルゼンチンに移った。37歳でフランスに移住し、1984年の誕生日前、69歳のとき白血病で逝った。
コルタサルがアルゼンチンにいた頃、同国はボクシングが盛んだった。フランスに移っても、ボクシングに興味を持ち続けたのではないか。
1. PASCUAL PEREZ (5/4/26 in Tupungate, Mendoza)
World 112 (54-60)
2. HORACIO ACCAVALLO (10/14/34 in Parque Patricios, Buenos Aires) (H. Enrique A.)
WBA 112 (66-67)
3. NICOLINO LOCCHE (9/2/39 in Tunuyan, Mendoza)
WBA 140 (68-72)
4. CARLOS MONZON (8/7/42 in San Javier, Santa Fe)
World 160 (70-77)
5. VICTOR EMILIO GALINDEZ (11/2/48 in Vedia, Buenos Aires)
WBA 175 (74-78)
WBA 175 (79)
その作品の中にボクシングの記述があるか、探してみた。たとえば、例の映画の原作「悪魔の涎」の中にあった(岩波版、72頁9行―10行)。
「少年は、戦意をなくし相手の決定的なパンチを待っているボクサーのようにうつむいていた」
ここで飛躍しよう。1974年、フランスでカルロス・モンソンとホセ・ナポレスの世界戦が組まれた。支援者は俳優のアラン・ドロンだったといわれる。このとき、コルタサルは世界的名声を得た作家であり、かのBlowupにより映画界とののつながりがあった。
試合会場のPuteaux, Hauts-de-Seine, Franceに作家コルタサルがいた可能性は推測できる。
さて、これから私は何をするのか?
コルタサルの短編集が岩波から2冊出ている。もう1冊は「秘密の武器」だ。これらを読み返し、ボクシングの記述を拾い出してみよう。
そして、Wikipedia で読んだコルタサルの著作の中に興味を引かれる晩年の旅行記があった。「かくも激しく甘きニカラグア」だ。それをAMAZONで注文した。アルゲリョが出てこないだろうか。
ある女優の訃報から彷徨が始まり、机上にいろんな本が積まれることになった。私にとり幻の作家、フリオ・コルタサルを求めて、もう少し遠出をしてみよう。
(7−23−2023)
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